2024.06.01
ソフトバンクグループの主要事業会社で、日本を代表する通信企業であるソフトバンク株式会社。同社は通信業界を牽引するのみならず、気候変動問題にも積極的に取り組んでいます。
ソフトバンクは、気候変動問題の解決に貢献することは企業の責務と認識し、持続可能な社会の実現に向け、AIなどの最先端テクノロジーを活用し、脱炭素社会の実現に貢献することを掲げています。2021年5月に「スコープ1」「スコープ2」の排出量を2030年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030」を宣言し、2022年8月には「スコープ3」も含めたサプライチェーン排出量を2050年までに実質ゼロにする「ネットゼロ」を発表しています*1。
こうした画期的な取り組みを行うソフトバンクは、グループ全体におけるESGへの取り組みを先導しています。
ソフトバンクのESG施策を統括する、ESG推進室 兼 CSR本部 CSR企画1部の部長である佐々井良二氏に、同社としての脱炭素の目標、カーボンクレジットへの考え、環境保全以外にESGに取り組むメリットなどについて伺いました。
Interviewee: 佐々井 良二 氏
ソフトバンク株式会社 ESG推進室 兼 CSR本部 CSR企画1部 部長
大手金融機関及び広告代理店を経て2010年にソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社。宣伝・販促部門にて主にCM制作、メディアバイイング、プロモーション企画を担当した後、ロボット部門にて事業企画・マーケティング企画業務に従事。
2017年よりCSR部門に異動。2019年よりSDGs/ESGの全社戦略立案、各種情報開示、社内外施策立案を担当。
Interviewer: 鈴⽊ 綜真
Spatial Pleasure 代表取締役社長
京都大学物理工学科在学中、オーストラリア、ボストン、南米など3年ほど転々とする。卒業後、ロンドン大学空間解析研究所(UCL Bartlett School)の修士課程にて都市空間解析の研究を行い、2019年5月にSpatial Pleasureを創業。都市の外部性評価に興味がある。Wired Japanにて「Cultivating The CityOS」という連載を持つ。
Index
ーー鈴⽊:まず、貴社で設定されている脱炭素の目標をお教えください。
佐々井氏:ソフトバンク株式会社のみならず当社の連結会社も含め、「スコープ1」*2「スコープ2」*3の排出量を2030年までに実質ゼロ、「スコープ3」*4も含めたサプライチェーン排出量を2050年までに実質ゼロにする「ネットゼロ」を目指しています。
ーー鈴⽊:御社のような日本を代表する通信企業がそのような目標を設定されていることに、感銘を受けます。脱炭素の目標を策定するに際し、基準にされている法律や規制があれば教えてください。
佐々井氏:GHGプロトコル*5という排出基準に即しています。さらに、どういう水準で下げていくかはSBTI*6(Science Based Targets Initiative)に準じて計画を立てています。
ーー鈴⽊:ありがとうございます。仮に自社のみで目標が達成できない場合、カーボンクレジットの使用などが必要になると思いますが、これに関する貴社の方針を教えてください。
佐々井氏:最終的にはスコープ1、2、3に対して様々な技術の利活用を含めゼロにしていくことが求められますが、どうしても残排出量がある場合は、必要に応じてカーボン・オフセット*7の活用なども将来的には検討していくことになると思っています。
ーー鈴⽊:なるほどですね。ちなみに、カーボンクレジットを購入したにも関わらず、排出量がゼロにならなかった場合には、何か想定されている罰則やリスクなどあるのでしょうか。
佐々井氏:現在は日本において企業に対する罰則はありませんが、投資家や当社に対するレピュテーションには少なからずネガティブな影響が及ぶかもしれませんね。
ーー鈴⽊:今後カーボンクレジットを使う場合、どういった種類のカーボンクレジットをお使いになりたいでしょうか。
佐々井氏:個人的な見解になりますが、排出している経緯や内容に親和性のある種類・手段のものを活用するのが望ましいと思います。また、生物多様性の観点なども勘案すると、森林吸収・管理のような温室効果ガスを吸収する仕組みへのカーボンクレジット活用の検討も重要であると考えています。
ーー鈴木:それでは、全く御社と関係ない分野で創出された環境価値を買うより、御社の活動と関係あるものを買われたいということですね。
佐々井氏:はい。自分たちが排出したことに対してリカバリーにつながる内容のカーボンクレジットを使用していきたいです。
ーー鈴⽊:他には、脱炭素の目標達成に向けて、どのような施策を実施されていますでしょうか。
佐々井氏:とくにスコープ2に関しては、事業上で必要な再生可能エネルギー比率を2030年までに100%にしたいと思っています。そのため昨年、所謂風力や太陽光などを含めた追加性のあるエネルギーによる長期調達のPPA(Power Purchase Agreement)を結んでいます。
また、当社の主要事業である通信は、非常に多くのエネルギーを消費します。通信においては、5Gの普及はもとより、生成AIに代表されるAIの発展、DX化の促進などデジタル化が加速度的に進むと、相当量のトラフィック増加が見込まれています。
トラフィックの増大は電力使用量の増加につながるため、いかに電力消費を効率的にしていくかが重要になります。当社では分散型AIデータセンターとして、データセンターの場所を分散させ、電力受給の効率性を高める取り組みを進めています。
ーー鈴⽊:大変参考になります。データ最適化によって省電力に取り組むことはとても画期的で、交通領域とも親和性があると感じますね。次に、御社が脱炭素の目標を達成した場合、企業としてどのような利点があると思われますか。
佐々井氏:企業として、自社が排出したものをネットゼロにするという社会に対する責務を果たしたこととなりますし、企業の社会的イメージ、投資家への評価も向上すると考えています。
ーー鈴⽊:逆に、達成されないとなると、株価などへの影響は考えられますか。
佐々井氏:可能性は否定できません。
投資家などのステークホルダーは、自社の排出量削減とともに、お客様は低排出量の商品・サービスを提供しているか、調達先や交通機関の選択なども含め企業の責任であるという考え方で企業を評価しますので、他人任せではなく、いかに自社とその関係者で排出量を下げる対応ができるかが問われてきています。
ーー鈴木:経済産業省のワーキンググループなどでは「経済的な合理性」がない場合、サステナブルな取り組みとは言えないとされています。これは営利企業でも同じであると思っており、おそらく佐々井様の部署と営業部とESGに対する温度感が違うと思いますが、御社全体でESGに関するガバナンスをきかせるための社内規定などがございましたらご教示ください。
佐々井氏:ESGの社内浸透や推進を促進するための体制を構築しています。CEOを最高責任者として、各部門ごとにESGの責任者・担当を設置しています。各部門の担当は自部門のESG対応の促進やそれらに資するアクション、自部門の進捗を把握するなどの取り組みを担っていただき、ESGは営業部門などを含めた全社の活動として進めていけるような構造にしています。
こうした取り組みを通じ、ESGの推進が、投資家や顧客を含めた外部評価、および企業価値を高めるという点に関して社内理解も形成できてきたと思います。
他方B2B部門では、取引開始に際し、企業の財務のみならずサステナビリティへの取り組みが重要な判断要素となってきています。このように、サステナビリティへの取り組みはビジネス拡大のための必要要素となっていると感じています。
ーー鈴⽊:「サステナビリティが取引先からの判断要素となる」とは、どういうことでしょうか。
佐々井氏:「環境に配慮していない、サステナビリティへ取り組んでいない」企業と認識されますと、取引に難色を示されることもでてきています。スコープ3を下げている会社と取引しますと、スコープ3がネットゼロにならず、コストに転化されますので、サステナビリティへの取り組みが積極的な企業のほうが両社にとってアドバンテージになると言えます。
ーー鈴⽊: 最後に、今後取り組んでいきたい脱炭素施策を教えてください。
佐々井氏:当社は現在、環境省とともに、どのように2050までにネットゼロを達成するかのロードマップを策定しています。
ロードマップを具現化していくためには、ロードマップの解像度を上げるとともに、ビジネスや業務、社員の意識をCO2排出を低減する環境負荷の低いスタイルへとシフトしていくことが重要になってくると考えます。
また、お客様や取引先様の排出量削減のための行動変容を促していくことも重要と感じています。
ーー鈴木:本日はお忙しい中、私どものみならず、サステナビリティへの取り組みを行う企業にとっても大変参考になるインサイトをいただき、どうもありがとうございました!データセンターの分散など、まずは自社の排出量の削減が大前提という中で、将来的なカーボンクレジットの使用についても検討されていることなど、貴重な意見をお伺いすることができました。排出削減量であれば、何でもオフセットとして活用するというわけではなく、自社事業との関連性や親和性を重視しながら、バリューチェーン内外の排出削減活動に貢献するという姿勢は、特に素晴らしい視点だと感銘を受けました。
[注釈]
*1 ソフトバンクのウェブサイトより
https://www.softbank.jp/corp/sustainability/special/netzero/
*2 燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が直接排出するGHG
*3 他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHG
*4 ある企業から見た時のサプライチェーンの「上流」と「下流」から排出されるGHG
*5 温室効果ガス排出量の算定・報告をする際に用いられる国際的な基準。企業を対象としてスコープ1〜3までの区分が設けられ、原料調達から消費・廃棄まで、サプライチェーン全体の排出量を基準にしている
*6 SBTIは企業に対し、どれだけの量の温室効果ガスをいつまでに削減しなければいけないのか、科学的知見と整合した目標(Science-based target)を設定し、企業がこれを達成することを支援・認定している
*7 まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出されてしまう温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資する等により埋め合わせる